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二〇二〇年 全国幹事会への報告と提案

3・29の全国幹事会は中止になりました

三月二九・三〇日 常任幹事会

情勢と切り結ぶ作品創造と組織強化をはかりつつ夏の総会を

 

一、はじめに

今回の全国幹事会では、夏の第54回総会に向け、憲法改悪、沖縄辺野古への新基地建設など国民の総意を無視し、ウソと隠蔽のモラル破壊の政治をつづける安倍政治の退廃・劣化状況に対し、「時代と暮らしを見据え、自由に豊かに詠う」を掲げる新日本歌人協会の役割りを再認識し、その自覚に立った短歌創造活動の発展を目指すこと、また、最近の会員、購読者の減少傾向に歯止めを掛けつつ、前進方向を支部の活動経験から学び合いたいと思います。そして総会決定の実践の任務を負う全国幹事の役割を改めて確認し、実践しつつ総会を目指したいと考えます。

二、昨年の全国幹事会以降の活動と教訓

① 昨年3月以降の活動で特筆すべきは『合同歌集・明日へつなぐ』の発刊でした。寄せられた作品は様々な体験を踏まえた時代を映す力作で、大変好評です。今後これをもとにした、支部での学習、さらなる普及が求められます。
② 夏のセミナーも成功裡に終わりました。結果報告は11月号に掲載されています。各報告もよく準備され充実したものでした。加えて会場も文学的風土と風光明眉で親しみやすいところをと考え小豆島としたのも好評でした。
③ 協会誌の企画では、作品特集「高齢化を生きる」(1月号、2月号)は会員の関心も高く二か月に分けての掲載となるほどの作品が寄せられました。また海外で活動する「世界樹」の渡辺幸一さんのエッセイ「Tanka Global Eyes」は連載29回を数え、ひとまず12月号で終了、イギリスからの日本を捉えた視点は鋭く、学び励まされました。この間の協会誌を輝かせる企画でもありました。4月号から始めた「新・短歌入門」(津田道明)の連載は3月号で終了予定です。
④ 啄木祭は静岡(4月27日)、埼玉・三郷(4月13日)、東京(5月12日)で開催され成功裡に終わりました。
⑤ 啄木コンクールは1月末日に応募を締め切り、選考に入っています。応募数は55篇で、5月9日の啄木祭で表彰、6月号で入賞作品発表の予定で進めています。
⑥ 近県集会は各地で盛会でした。近県集会は関西(5月9日、114名)、九州・山口(5月12日、13日、120名)、四国(10月19日、20日、30名)関東(10月20日、21日、65名)が開かれました。各地の取組みをなど経験交流し、学び合う必要もあります。
⑦ 会員、購読者の推移と現状
前回の全国幹事会の時(2019年3月)の会員・購読者総数は954名、内会員494名、購読者460名でした。その時点からさらに減少が続き、今年1月末には会員・購読者総数897名、内会員485名、購読者412名となっています。減少傾向を克服し、当面一〇〇〇名の回復を目指すことが課題です。

三、 新日本歌人協会の役割

そうした活動を通じていま特に考えられるのはわたしたち新日本歌人協会としての立ち位置の自覚ということです。
昨年の全幹、セミナーにも重ねてふれられましたが、現在の政治・社会情勢にあって、歌壇・歌人の現状は残念ながら時代に向き合うということの希弱さにあると言わざるを得ないといえます。平成から令和へと元号が代わったという政治的、マスコミ的奉祝ムードに乗った皇室関連出版も歌壇に多く、書店によっては特設コーナーまで作られる程です。
こうしたやや異様なおもむきをみせている歌壇の傾向については、本誌3月号「歌壇時評」で中山洋子さんも鋭く問うているとおりです。そこでは千々和久幸氏執筆の「世の中がこうのっぺりした空気の中に埋没してしまうと、人間は戦うことを忘れ…(略)…日常身辺の他愛ない出来事を掬っていれば日が暮れる、という有様…」という文章も引いています。
また「短歌研究」2月号の「思想家・内田樹vs歌人・吉川宏志の特別対談『天皇と短歌』」のなかでも永田和宏氏の書いた『象徴のうた』も話題になり、そこでの吉川氏の発言で、「かつては六〇年安保闘争の歌を作り、左派的と見られていた岡井隆さんが歌会始選者に就任し、大きな衝撃を歌壇に与えます。それに対し、佐佐木幸綱さんは「俺は行かない」という文章を書き、自分は歌会始選者にならない、という姿勢を明確にしました。このときも歌壇全体で激しい論争が起きています。けれどもその十年後くらいから、かつて学生運動をしていた永田和宏さんや三枝昻之さんが歌会始選者に就任し、近年ではあまり論議にならなくなりました。」と述懐しています。いみじくもという感がします。
また、この対談の司会役の編集者が、二〇一九年一月号で特集した「平成の天皇・皇后両陛下の御製と御歌」に対して一部の厳しい批判があったことをいいつつ、「いっぽうで、現代短歌と天皇についてフラットに受け止めてくださる方もいました。とくに発言していない方の中にも、いろいろな考え方がある…」といい、また別の発言でも、「即位のときの『おことば』では、…日本国憲法にのっとりと、明確に考え方を示しておられます…」といい、即位の儀のあり方にも全く疑義をさしはさむことなどありません。
これらは皇室(天皇・天皇制)をめぐっての話題のことのように見えますが、こうした保守化気分とともに国民の暮らしや、戦争・平和につながっていく憲法の「改変」の危機などへの切実感などが「のっぺりした空気の中に埋没してしまう」ような歌壇の現状は杞憂ではなくなりつつあります。
こうしたとき、わたしたち新日本歌人協会の役割りということを、いま一度自覚をしていくことが重要です。
数多くある短歌の結社・団体のなかから、新日本歌人協会を選び、その会員の一人として「時代と暮らしを見据え、自由に豊かに詠う」短歌をつくり、おもいを表現していくということの格別の意味に思いを及ぼしていきたいと思います。
もとより、短歌をつくることを楽しみ、喜びを第一にしながらも、さらに、そのなかに、社会・政治の動きにも関わっていけるという自覚を、しっかりした生き甲斐ともしていきたい、そういう協会を目指したいと思います。

四、魅力あふれた支部、歌会

①協会活動の中心はやはり支部・歌会です。互いに尊重し合いながら作品の向上をめざす民主的な運営に心がけ、支部・歌会が楽しく元気になるよう心がけましょう。
②支部、歌会に参加してくる人たちは、歌が上手くなろうと考えています。歌会で示された他の人の作品を鑑賞し批評するにあたっても、じっくりと時間をかけて作品と真向かい考えを整理して述べることは、自らの作品創造にも活きることになります。事前に歌会作品を配布し歌会の合評に備える支部の経験に学ぶことも大事です。
③歌人協会は民主的な短歌運動の歴史をつなぎ将来に発展させる任務をもった運動体です。仲間主義に陥らず、いつも新しい人を迎え入れる雰囲気を整え、新しい会員・読者を迎え入れましょう。新しい人の新鮮な感覚は創造活動への変化をももたらすでしょう。
④支部の学習活動も大切です。連続した短歌講座や学習会など支部の実情に応じて進めましょう。その際、互いに講師になって行う、協会誌を活用するなど全国の支部の積極的な教訓に学びましょう。
このほど『やさしい短歌の読詠』(小石雅夫著)が出版されました。これは協会誌に連載されたものをまとめたもので、短歌の楽しさ面白さを知ってもらうことを力点にして、多くの歌が引用され、親しみやすいと好評です。支部での学習とともに、多くの人に広めましょう。

五、一〇〇〇名の協会への克服と前進のために

一〇〇〇名の会員・購読者の目標は歌人協会の長年の目標でした。これを第49回総会時(2010年)に到達し、さらに一一〇〇名の目標を掲げたのは現在の情勢のなかでの協会の役割を高め、新しい仲間を加えることによる活性化、加えて協会財政の安定にありました。
しかしこのところ会員・購読者の減退傾向には歯止めがかかりません。このままでは協会の今後の継続をも危ぶまれる状況にあり、いかに現状を克服し未来につなげるかは歌人協会の直面する課題となっています。
この課題の討議に資するために常任幹事会は、昨年に引き続き全支部アンケートを実施しました。アンケートの設問は、「支部構成員の現状」「入退会状況」「支部の周りで会員が参加している歌の会の状況」「短歌を通じての地域的な活動状況」「歌会の運営方法や学習活動」「当面一〇〇〇名を回復する上での課題、『新日本歌人』誌への意見」等です。
アンケートの結果については分析を加え別途に示すことにしますが、これらの問題意識のもと、いくつかの問題提起を行います。支部活動の経験を踏まえての積極的な議論を期待します。

(1)点在会員・購読者への働きかけを意識的に
歌人協会の規約では「会員が3名いれば支部をつくることができる」と明記され、入会・購読で必ずしも支部に入ることは義務付けられていません。
しかしせっかく短歌に関り入会・購読された人たちに支部・歌会の良さを伝え、支部に加わってもらうことは重要です。それによりさらに短歌への関心を強め、ひいては協会組織を強めることになるでしょう。そのためには支部ニュースの活用は効果的です。
(2)目的意識的な会員・購読者の拡大を
何らかの形で自分を表現したいと考えている人は大勢いると思います。その人たちに短歌で表現することの楽しさをもっと訴えましょう。
様々な地域のつどいで短歌を紹介したり、他の団体へも働きかけて短歌サークルを作ったりしながら会員・購読者を広めている全国の支部の活動に学びましょう。
(3)もっと投稿者を増やそう
「新日本歌人」誌への作品投稿者数を増やすことは、会員・購読者の拡大と並行して、民主的短歌運動の中心を担うべき土台と位置づけもっと関心を払うべき課題でしょう。この問題は昨年12月号の「協会この一年」で中山惟行氏が指摘しているものですが、この10年間の推移でも減少傾向です。作品の質の向上はもちろん欠かせませんが、投稿比率・投稿数の増加は民主的短歌運動の勢いを示すものとして互いに励まし合い取組みを強めましょう。読者歌壇の充実にもさらに力をつくしましょう。
(4)若い人たちを迎え入れる工夫と努力を
高齢化社会の進行のもとで、新日本歌人協会の会員・購読者の平均年齢は70代半ばになっていると思われ、歌人協会の継承を考えた場合、若い人を迎え入れる課題は避けて通れません。そのためにホームページを含め新しいネットの活用方法について検討するなど、知恵を結集しましょう。

六、常任幹事会体制の確立と全国幹事の任務

(1)常任幹事会の体制確立は喫緊の課題
常任幹事会体制の確立は「新日本歌人」誌、さらに新日本歌人協会そのものの存続のために欠かせない課題となっています。
常任幹事会体制の弱体化の問題はこのところの総会や全国幹事会で再三提起していますが一向に改善の方向が見えません。組織・財政・編集・事務局など各専門部とも人数的にぎりぎりの状況で、とりわけ編集部にしわ寄せされています。常任幹事は現在13名で、各専門部への任務配置上、編集部員は二名で、編集部体制を補うために代表、副代表が援助しています。校正作業には数人の方の協力を得ながらも、編集部は毎月の協会誌の企画・編集・発行、それに付随する原稿依頼・歌稿受付と入稿時の朱入れなどを少人数で行っているのが現状です。他結社の雑誌編集体制を聞くと、協会誌よりページ数が三分の二程度の歌誌の団体でも10数名が編集に関わっているといわれ、歌人協会の現状はまさに協会誌の継続発行の危機的状況にあり、ひいては協会存続の危機にあるといっても過言ではありません。
常任幹事の任務は事務所を東京に置く関係から、東京周辺で責任を負わなければなりません。会員が自らの問題と捉え、様々な援助、知恵を集約して欲しい。そしてこの夏の総会からは強固な常幹体制を作り上げたい。強くお願いするものです。
(2)全国幹事を先頭に課題の遂行を
課題の実践に当たって、改めて全国幹事の役割を考えてみたいと思います。
規約で示された全国幹事の任務は「総会の決定事項実現のために活動します」とあるだけです。単純な一文ですが重要な内容を含んでいます。では、歌人協会は何をしているのか。規約に明記されている協会の事業(第2条)では、「新日本歌人」誌の発行、短歌サークルの育成・援助、歌会・研究会・講演会などの企画・開催などで、全国幹事はその全体の実践の任務を負っていることになります。「新日本歌人」誌の発行では、地方においても編集企画への意見提出、原稿執筆などあり、学習会や短歌講座を企画し、その場合講師を自ら行う気概も求められます。
焦眉の課題である常任幹事会の体制を整えるために、指導者の継承、一〇〇〇名の協会への回復のために、全国幹事一人ひとりが自覚をもって課題を切り開いていきましょう。

七、第54回総会に向けて

すでに準備が進められている啄木祭(東京5月9日、埼玉・三郷4月11日、静岡4月25日)を成功させるとともに、可能なところではさらに開催しましょう。
第54回総会は8月末の予定で開催します。役員改選もあり、特に常任幹事会体制の確立のために力をつくします。



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