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Tanka Global Eyes 6

日本という名の属国

From イギリス  To 東 京  渡辺幸一(世界樹)

 アメリカのトランプ大統領が日本を訪問したのは十一月五日であった。その前後、私はイギリスを離れ、沖縄にいた。普天間や嘉手納にある米軍基地の現状とともに、新基地の建設が強行されている辺野古の実態を知るためである。トランプ訪日に先立ち、長女のイバンカ補佐官が父親の露払いをするかのように日本へやって来た。日本政府は彼女を超VIP待遇でもてなし、下にもおかぬ扱いをした。NHKはじめ日本のメディアは彼女の一挙手一投足を取り上げミーハー的に報道した。

娘のイバンカでこうなのだからその父親が来たらもっと大変だろうと思っていたら案の定、日本政府はトランプをまるで宗主国の王様のように厚遇し、翼賛的な大手メディアも一体となってその様子を伝えた。私は改めて日本が独立国ではなくアメリカの「属国」に過ぎないことを実感した。

「属国」などと書くと「何を大げさな」と笑う向きもあるだろう。しかしこれは笑って済まされる問題ではない。たとえばトランプの日本への入国方法である。今回、トランプは横田にある米軍基地から日本に入国した。国賓として招かれたのならその国の表玄関ともいうべき首都の空港を使うのが国際的な礼儀である。訪日に際して米軍基地から出入国したアメリカの大統領はトランプが初めてであり、過去には誰もいない。私たちが想起するのは日本が戦争に敗れた一九四五年、コーン・パイプを口に咥え、悠然と厚木飛行場に降り立った連合国最高司令官、ダグラス・マッカーサーの姿である。

横田基地に着いたトランプは「アジア歴訪を始めるにあたり、米軍兵士と日本の自衛隊員が集まっているこの基地ほどふさわしい場所はない」と嘯いた。日米地位協定によって日本の主権が及ばない米軍基地に降り立ち、「米軍と自衛隊の一体化」に言及するなど無神経も甚だしい。それを是認する安倍政権も異常である。これに対して批判の声をあげない大手メディアも実に不甲斐ない。私が「日本はアメリカの属国なのだ」と実感したのも無理のないことであろう。

トランプを大歓迎した日本とは対照的に私が住むイギリスではトランプの訪英に対して国民が大規模な反対運動を起こした。EU離脱を決めたイギリスは欧州で孤立している。EU本部はイギリスにきびしい離脱条件を突きつけ、交渉は遅々として進まない。苦しい立場にあるイギリスにとってアメリカとの「特別な関係」はいわば頼みの綱である。トランプが大統領に就任した時、メイ首相は早々と訪米して両国の絆を確認した。その際、首相は大統領を国賓としてイギリスに招待することを申し入れ、トランプもこれを受け入れた。ところがこのニュースが伝わるとイギリスの国民から猛然と反対する声が沸き起こった。「あのような下品な男を女王に会わせるわけにいかない」と言うのである。「招待を取り消して欲しい」という請願運動が始まり、たちまち百万人を超える署名が集まった。議会もこれに同調し、バーカウ下院議長は「私の権限においてトランプ大統領が下院で演説することを許可しない」と断言した。

結局、二〇一七年に実現するはずだったトランプの訪英は一八年に延期された。その具体的な日程はまだ決まっていない。トランプ本人は「歓迎されないなら行かない」と言っているようだ。「来なくて結構だ」と私は思う。

トランプは安倍との共同記者会見で「非常に重要なのは日本が追加的に膨大な兵器を買うことだ」と述べ、公然とアメリカからの兵器購入を要求した。これに対して安倍は迎合的な態度で「日本の防衛力を質的に、量的に拡充していかなければならない」と応じた。トランプの本質は政治家ではなく、アメリカ製品のセールスマンに過ぎない。そして今回の訪日に限っていえば、彼はまぎれもなくアメリカの軍需産業の意を受けた武器商人だった。日米軍事同盟の拡大を目指す安倍政権がトランプの誘いに乗り、軍備増強に走る姿は異常である。この流れをどこかで断ち切らなければ日本はいずれ戦争に巻き込まれ、亡国の危機を迎えることになるだろう。

幇間のごと振る舞ひてトランプに媚びる首相の姿哀しき

大統領の地位にはあれど実体は武器商人の男に過ぎず



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