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短歌、この一年の成果と課題 (17年11月から18年10月)協会 その2

コンクール、合同歌集などを作品の向上への糧に   清水 勝典

啄木コンクール

二〇一八年啄木コンクールの入賞は江成兵衛さんの「フクシマのいま、そして」と小山尚治さんの「原爆ドーム」の二編だった。この入選作を含む最終選考作品については六月号の特集で各選考委員が選評しているのでここではそれ以外の作品について、およびコンクールの課題などに触れてみたい。
最終選考には残らなかったものの応募作品を一首ごとに見たとき注目する作品が多々あった。奥山直人さんの歌〈非正規は悔しく悲し母送る忌引きの期間欠勤とさる〉や、深谷武久さんの〈空を裂き自衛隊機が飛び去れり麦野ひばりのうたが聴きたい〉、小林加津美さんの〈ぬくもりの未だ残る指拭きやりぬ働きとおした一本ずつを〉、黒田晃生さんの〈沖縄と連帯せんと集う夜凍る諏訪湖は春の気配す〉などなどである。しかし啄木コンクールは一首だけの選考でなく二十首をトータルとして仕上げる課題が残される。
ひとつは歌のテーマ。啄木コンクール作品募集要項には「時代と暮らしを見据えた、意欲的で清新な短歌を募集します」とある。さすがにこのコンクールの応募作品には言葉遊びや奇をてらったものはないが、より深く現在を見つめる視点が求められよう。歌壇誌の短歌賞は「角川」が五十首、「歌壇」が三十首、「短歌研究新人賞」が三十首などで、啄木コンクールの二十首はさほど多いわけではない。しかし個々バラバラな歌の寄せ集めでは弱い。構成なども熟慮し作品を通読して読み手に迫ってくるものが求められる。そのためにはやはりテーマを定めて詠うのが、詠いやすいし、効果的と思う。
しかしテーマに沿って二十首をまとめるのは容易ではない。今回入賞の小山尚治さんにコンクール挑戦への苦労を聞く機会を得た。小山さんは応募テーマを「原爆ドーム」と決めたのち、原爆ドーム周辺と広島の街を歩き、そこで見たこと、感じたことをノートに書きしるし、ノートはメモで一杯になったという。私事だが、同じような経験をした。一九九九年度の啄木コンクール応募に当たって、私は、前年に開かれた関東近県集会での横田基地見学を題材に作品をまとめ始めた。しかし自分なりに納得のゆく作品が揃わない。そこで改めて現地を見ようと一日かけてまさに横田基地をめぐった経験がある。
また、作品全体を読み終えたのちに一首一首の歌に共鳴してさらに大きな共感、感動を起こすような作品の配列にもぜひ気を配って欲しい。
二〇一八年の啄木コンクールの募集の際常任幹事会は、目標応募総数を一五〇編に据えた。しかし結果、応募は一二三篇にとどまった。協会内からの応募も前年の六五篇から四八篇と減少した。前年、横浜支部の河村澄子さんが支部の会員全てに応募を呼び掛けたような支部としての位置づけが弱かったのではないかと思われる。
今後コンクールを充実させるために様々な手立ても必要かと思う。一つには若者、学生、民主諸団体などに向けて広くコンクールそのものを宣伝すること。これは新日本歌人協会自体を知らせる活動でもある。また、これまでのコンクール入選者の体験をもっと語る場を設けるのも良い。これは先の総会での小山さんの発言でもあるが、小山さんは所属する支部でコンクール応募に当たっての体験を報告し今後の応募を促したという。これは協会誌や「北から南から」などでの企画に生かせればとも思う。
二〇一九年度の啄木コンクールの募集が始まっている。応募期日の一月末までにはまだ間がある。各人がコンクールの場を積極的に利用して歌の力を向上させる自覚と、互いに励まし合い成長し合う立場で支部を挙げての運動とで、啄木コンクールを成功させたい。

合同歌集・支部合同歌集

「合同歌集」が来春の刊行を目差し取り組まれている。合同歌集は一九八三年の『火を継ぐ』、一九九〇年の『火を継ぐⅡ』、二〇〇二年の『世紀の風』、二〇〇四年『世紀の風Ⅱ』などに継ぐ戦後八回目である。
今回の「合同歌集」は歌人協会創立七〇周年記念の事業として一般公募の『平和万葉集』と同時に、会員の創作上の到達点と更なる向上をめざす上で企画に上がっていたものである。しかし現時点での「合同歌集」発行の意義は、単に作品創造の到達に限らず、憲法と日本の未来を脅かす動きに抵抗する文学分野での活動との性格をも持っている。
現情勢とかみ合った作品をまとめている会員もあり、また応募期日の短さも指摘され、常任幹事会は応募期日を一月十日に延ばすことにした。改めて積極的な応募を呼び掛けたい。
「支部合同歌集」の発行も作品創造意欲を高めるうえで重要だ。支部合同歌集の発行期間はそれぞれの支部の事情でまちまちだ。組織部でまとめた「支部合同歌集の発行」一覧(十一月号)によると昨年十二月以降だけでも八つの支部が発行し、京都支部「洛葉」、吹田あい川「あい川」、高槻「あきあかね」、岡山・コムコム短歌会「蹈鞴」、岐阜「岐阜歌人」、野川「野川」、栃木・宝木短歌会「だいこんの花」多摩川「多摩川」など歴史を重ね発行回数を重ねる支部の中にあって、静岡・藤枝短歌会の「えんどうの花Ⅰ」、また期間はややさかのぼるが水戸・水脈短歌会が「水脈第2集」を発行していて協会の新しい息吹を感じる。
「合同歌集」は支部の相互の交流などにより意見、感想を交わし合い、互いの励みになるように期待したい。

歌論・評論・時評

この期間で特に注目したのが大阪・京阪短歌会の武田敏郎さんの研究著『茂吉歌集勝手読み』である。書評を九月号で高島嘉巳さんが書かれているが、この書は「茂吉戦争歌に特別焦点を当て…柱として据えつつ、茂吉歌集の全体像の本質的把握にむけて清新な視点を提供すべき貴重な試論」であり今後に期待するものである。
その他この一年の評論には特筆すべきものがなく、「短歌時評」の書き手を含め、大いなる挑戦が求められている。

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協会誌の編集企画は全体的に充実した内容であった。特に「歌人にいまを聞く六十一人アンケート」、「Tanka Global Eyes」の渡辺幸一さんの連載、二度にわたる沖縄特集などはまさに時宜を得たもので、好評でもあった。また啄木祭の全国五か所の開催も特筆すべきで、来年はさらに広めたい。一方組織的には到達した会員・購読者千名からの後退が続き、新しい年を迎え心機一転を図りたい。
憲法をめぐる情勢の危機にあって憲法九条を守る歌人の会の発展にはさらに大きな寄与が求められている。

 



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