■二〇二〇年 第五十四回総会に向けての臨時報告と提案
新日本歌人協会常任幹事会
コロナ禍に「創造と組織活動を一体」として真向かい さらなる民主的短歌運動の発展をめざすために─
はじめに
本来であれば三月に予定していた全国幹事会を経て、八月下旬には第五十四回総会を開催して、今後の協会の運動や活動の確認と、全国幹事・常任幹事会体制など新たにし、拡充をして、これからの方向・展望を語り合う筈でした。
だが全く予期しない新型コロナの感染拡大・蔓延が一切を妨げてしまいました。国内での感染者はすでに七万人に迫り、死者も千三百人を上回り(8/31現在)、しかも八月に入ってからの一日毎の感染者数と死者とはそれまでを超えて倍増化の勢いとなって増えつづけています。千数百人もの死者とは驚くべきことだと思います。
この現状は容易ならない現実であることを、馴らされないでシビアに確認せねばなりません
しかもその暴威は、いまや世界中を被いつくして、感染者二六〇〇万人を超えて三〇〇〇万人に迫り、死者が九十万人近くなって、なおその拡大ぶりは収束が見えず、未だつづいています。まさにこの人類的、地球的規模の危機事態の日常のなかに、わたしたち一人一人が投げ込まれている現実にいるということであるのです。
しかも、国民が平静でいられないこの危機に乗じて、あわよくば積年の憲法を改変しようとしてきた企図まで政治的策謀として狙ういまの政権の度し難い姿勢を見るとき、もはやその継続は一日も猶予が出来ない情況です。
こうした異常ななかで、組織も個人も、そうしてわたしたち短歌を創造していくことを通して現実を見詰め、真向かう立場にある者はことさらに、いかに生存を守り合い、乗り越え、克服し、打開してその先へ踏み出していくかを真剣に考えることが迫られています。
この状況を踏まえ、コロナ禍での協会運営の現状を報告しつつ、延期した総会まで、協会が抱える当面の重点の課題について報告・提案することにしました。前回総会以降の二年余の総括及び以後の方針は延期した総会時の「報告と提案」で改めて提起することとします。
1、コロナ禍での協会運営の現状
そんな中で、先に協会誌六月号に「『コロナ禍』における協会運営について ご理解ご支援を」(13ページ)で、その現状をお伝えいたしましたが、さらに、その後の状況を若干補足的に報告いたします。
前総会(第五十三回)の常幹改選時に、それまで二十人ほどで運営に当たっていた常幹が、候補者の不足で近年次第に定数が減り、僅か十四名となったことをその時に「少数精鋭ならぬ少数高齢体制ですが」といいながら代表が紹介しました。(その後、深谷武久常幹が急逝し現在は十三名体制)
今回のかつて経験したことのないコロナ禍という危機には、この〝少数高齢体制〟で直面しています。
いま協会を運営していく上で大事なことは、先ず何よりその担い手であるこの〝少数高齢体制〟を感染リスクからいかに遠ざけながら維持していくかでした。万々一に感染の場合は高齢者の場合は命にも関わることです。
協会事務所は都内・豊島区大塚に位置しており、そこへの手前には山手線新宿駅(大塚駅へ五駅)、池袋駅(隣駅)で三、四月当時から、さらに現在は都内でも最大の感染者発生の地域・新宿を経由往来して事務所へ行くことを考えると非常に高いリスクを帯びています。
そのリスクのなかを往来して編集作業をおこない、また、入稿・校正をおこなう印刷所も新宿区内にあるその現実的な大きい懸念から、編集作業の一時中止、休刊が実際にも提起があり、検討されたりしました。
さらに財政部、組織部、事務局の事務所での作業を大幅に縮少することを要請・検討したりしました。
しかし、協会活動の中軸である協会誌「新日本歌人」発行の継続維持の重要性・必要性、事務所への全国会員・購読者からの連日の郵便文書類・入出金の処理・連絡等に対応し、協会を運営していく上には停滞・遅滞できない実作業も伴なっており、そのための各部責任者のリスクを抱え、冒しての避けられない厳しい現実をもあらためて認識することにもなりました。
以下、改めて簡潔にその間の各部の運営報告をします。
・編集部
五月号のための原稿がほぼ出揃ったころ、急激に新型コロナの脅威にさらされることになりました。「不要不急の外出」「事務所への出入り」も極力制限・自粛ということになり、他の文学団体も事務所閉鎖に準じる手はずをとっていました。この時が協会誌にとっての最大の危機でした。
しかし編集実務は「待った」というわけにはいかず、とりあえず、入稿を済ませました。問題は校正でした。いつもなら編集部員と何人かの会員有志が印刷所で一日がかりの校正作業を二度、そして編集部員がもう一度確認の念校をするのですが、今は常幹以外の会員の「自粛」を妨げるわけにはいきません。何とか常幹自体の外出の回数も人数も少なくする工夫をしましたが、自宅作業のためのゲラの郵送や戻しにどうしても日数を要してしまいます。その結果、従来毎月二十日前後の発送が少し遅れることになってしまいましたが、この際だから会員諸氏も分かってくださるだろうと、甘えることにしました。ありがたいことに会員のみなさんからは、「このように大変な時に発行してくれてありがとう」とお礼と励ましをいただいています。
入稿についても通常事務所で二、三回ほどの作業を要していましたが、郵送による自宅作業などしてもらい、一回で済ませるようにしました。
このところ編集会議らしいものも開けずにいて、思うように企画も立てられずにいるのが悩みです。しかし会員あっての協会誌で、歌稿があれば、原稿があれば発行は続けられる。そのためにも大いに投稿者が増えることを願っています。
・組織部
コロナ禍のもと、全国六十ある支部のほとんどが、四、五、六の三カ月間、歌会の中止を余儀なくされました。緊急事態宣言が出され、不要・不急の外出自粛が求められ、公共施設も一斉に閉鎖される中で、歌会会場が確保出来ないための中止でした。
この困難な状況にあっても、いかに支部・会員と連絡を取り合いつつ協会活動を維持・前進させることができるか、これが組織部の課題でした。でも一堂に会しての打ち合わせは出来ません。幸い常幹の中でも、組織部は部員全員がパソコンを扱え、組織部としてのメーリングリストも作っていましたので会議はメールを使って行うことにしました。
全国幹事・支部長と常幹とを結ぶ「北から南から」の発行は組織部として重視しているものですが、それでも四月はどうしても体制が整いきれず中止、それに代わって「コロナ禍での自粛の中でこそ、電話やメールを使って会員・購読者の拡大を」の訴えを協会誌五月号に折り込みました。五、六月はA4判で協会誌に折り込み、七月は通常配布、また八月以降はコロナの収束が見通せないため協会誌への折込みをつづけることにしました。
この過程で、特筆したいのが大阪府連の「組織拡大と作品創造」の取り組みの提起と、引き続く爆発的な成果でした。この活動はすぐさま全国に知らせなければいけない、これが組織部の共通認識でした。そこで早速、「コロナ禍の今こそ、大阪府連の活動に学び、会員購読者を大きく増やそう」との呼びかけを作成し、常任幹事会の確認のもと、全国幹事・支部長あて五月十五日に発送しました。この大阪府連の経験と教訓については協会誌九月号に中山惟行さんが書かれていますので、ぜひ参考にして下さい。
・財政部
コロナウイルスの感染で自粛ムードが高まり、財政の仕事を今後どのように進めていけばいいか、悩み始めたのは三月頃でした。会費や購読料の振り込みは毎日あり、その処理を滞らせることはできないからです。五月に入ると、大阪府連の組織拡大の運動が始まり、新しい会員、読者の名簿が続々来ることになり、また、多大なカンパも寄せられ、うれしい悲鳴をあげるほどでした。財政実務作業は滞りなく進めることが求められる地道な作業ですが、新しい会員・購読者の増えることは何よりの励みになります。
・常任幹事会
常任幹事会は感染拡大防止の立場から三月の幹事会は時間を短縮し、四月から六月は中止、ネットを利用して連絡を取り合う方針に切り替えました。七月の常幹から全員対象の常幹会議に戻しましたが、遠距離からの参加者や高齢などの条件もあって一様にはいかず、名古屋の津田さんはZoomで参加しています。なお、Zoom会議は活用拡大の方向で検討をすすめます。
2、 大阪府連の活動に学び当面千名の協会回復を
(1) 支部・歌会活動
新型コロナ感染拡大の緊急事態宣言が解かれ、多くの支部で歌会が再開されました。宣言解除後、支部から寄せられた支部報、会員の投稿歌を見ると久し振りに仲間と再会できた喜びの様子が窺われます。再開された歌会が今後とも継続し、さらに良い環境で出来ることを願うものです。
しかし宣言は解かれたとはいえ、感染拡大は東京中心から地方へも急激に拡大し、八月は第二波の真っ最中と報告されています。今後の収束も見通しはつきません。そのためにも、感染拡大防止の三密を避けながら、より仲間との連絡を密にするために支部報の重視を呼びかけたいと思います。先に紹介した大阪府連の活動では「府連だより・臨時版」が大変威力を発揮しました。大阪府連の「府連だより・臨時版」は連日の活動の具体的内容をすぐさま紹介し、全体のものとして大きな成果を生み出していったのです。その発行は二カ月余りの間で八号まで及んでいます。仲間との心のつながりを強めるために、この経験は大いに学びたいと思います。
(2)千名の協会回復に向けて
コロナ禍にあっても、また大阪府連の活動に呼応する形で、滋賀、鹿児島、愛知、岐阜などで積極的な会員・購読者の拡大が取り組まれました。
大阪府連の成果は目をみはるものですが、この中で言えることは、コロナ禍での大変な状況にも関わらず、みんなが心を一つにし、目標を持って本気で取り組めば 展望は開けるということではないでしょうか。
七月末現在の新日本歌人協会の総数は九六八名です。千名まであと一歩というところまで回復しました。これからは全国の支部が、この大阪府連の取り組みに学び、どうやって仲間を増やすか、支部独自の、きめ細かな、丁寧な話し合いが求められます。支部長や全国幹事が頑張るのも重要ですが、さらに支部全体の問題として取り組む事が大事で、歌会の折りに少し時間を裂き、討議をすることが望まれます。
話し合いの中で、それぞれ仲間になって貰えそうな対象者を出し合い、目標を定め、次の歌会までにそれぞれ交渉に当たり、それを歌会で報告しあうという方法もあるかと思います。
各支部が一人増やせば協会全体で千名は軽く超えることができます。延期した総会までには、何としてもこの目標を達成しようではありませんか。
(3)危機のこの時代を大いに詠おう
大阪府連の訴えで注目されたのは「組織活動と創造活動」とを一体のものとして提起したことにありました。もともとこれは新日本歌人協会が単に歌をつくるだけの組織ではなく運動も一体として取り組む理念に叶ったものでした。単に会員・購読者の拡大に限定しないで、現在の危機を詠む運動、それを合同歌集『この国はいま』を冊子にしてさらに普及しようとする提起とが府連に参加する人たちの共感を呼んだものといえます。『この国はいま』の普及はさらに新日本歌人協会への関心を高めるものになるでしょう。
「新日本歌人」誌が緊急募集している「2020年 いま、この危機を詠む」の作品募集にも多くの人が呼応して作品を寄せてきています。コロナ禍と現在の危機に対する関心の高まりのもと、より多くの作品を詠み、また本質を抉った作品創造に努めようではありませんか。
(4)2021年啄木コンクールへの挑戦を
2020年啄木コンクールは入選「寄りそう医療」橋本忠雄さん、佳作に「子どもの施設─回想」吉田万里子さん、および「前事不忘─満蒙開拓平和記念館」小林加津美さんに決まりました。応募は前回よりさらに少なく五十五篇に留まりましたが、応募者の内、協会員・購読者は三十六名で全体の比率では六十五%でした。2021年のコンクールも前回と同様の要項で募集しますので新しい会員を含めて歌人協会挙げて時代の変動を見つめる運動として取り組もうではありませんか。また広く作品を募るための努力が必要と考えています。
3、総会の準備
延期した総会の開催時期については、当面、協会創立七十五周年記念に当たる来年の二月をめどに準備を考えることにしました。新型コロナがそれまでに収まれば別ですが、現状この感染状況が続くことを前提に準備をせざるを得ない状況にあります。この場合、感染防止の三密を徹底しながら具体的にどのような形態で総会が行えるか、準備に当たっては常幹内に総会準備委員会を設けて検討することにしました。
なお、全国幹事や常任幹事の任期は本来では総会から総会までの二年となっていますが、今回の延期に伴い現役員は延期した総会までの期間としたいと考えています。なお、延期総会に向けて全国幹事、常任幹事の候補者準備を進めていきます。とりわけ常任幹事の人選に当たっては、新型コロナ禍での任務継承のために首都圏の会員の協力を今まで以上にお願いします。
4、創立七十五周年事業
こうしたなかで、来年二月には新日本歌人協会創立七十五
周年を迎えます。これまで創立六十年、六十五年、七十年の際には、それぞれの節目として、協会創立の意義を再確認し、その時点での活動・運動を見つめ、さらなる展望をする機会ともしてきました。その時に開催してきた記念の会や協会誌の「記念特集号」などで、協会内部だけでなく、外部からも協会活動にも関心を向けていただいている歌人の幾人かをお招きしたり、ご寄稿をいただいて意見や感想などを聞き、掲載してきました。
今回の不測な事態のなかでも、むしろそれだけに、協会が
戦後一貫してきた民主的短歌創造と運動としてのありようを再確認し、深めていきたいと考えます。
コロナ感染状況や沈静方向などの事態の推移はまったく不透明ですが、現時点での可能性を前提とした上で、つぎの提案をいたします。
(1) 創立七十五周年記念の会
A案 東京会場開催
これまでに準じた開催とし、もし第五十四回総会が東京で開催できる状態となった場合には、総会時に同時開催として行なうことも可能となります。
B案 東京会場、大阪会場二会場開催
関東地域、関西地域の二会場に分け、コロナ拡大の遠距離往来範囲を少なくして開催を行なう。
A案は従来どおり常任幹事会で準備計画しますが、B案の場合は、大阪府連の協力をお願いすることも考えています。
できれば、諸準備諸便宜上から東京開催が至当ですが、この際開催について、二会場開催(B案)も検討します。
いずれにしても第五十四回総会開催がどうなるか、開催地がどこになるかでも、さらに流動的な検討が必要でしょう。
(2)「新日本歌人」七十五周年記念号
編集部を中心に常任幹事会として編集準備し、外部寄稿者も可能な協力をお願いする。
(3)その他、「『平和万葉集』憲法とコロナ危機版(仮題)」
編纂の準備もしていきたいと考えていますが、これには現常幹体制では要検討課題であり、常幹外からのしっかりした編集スタッフの参加などが必要でしょう。それらが整えば具体化への計画着手を行ないたいと思っています。