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困難を表現し続ける短歌

梶田 順子

落ちてゆく落ち行く先はいずこまで花びらならず日本の政治日野きく(短詩形文学7月)
ポロシャツの白さはやかに公安の人近づき来 五月の朝を大口玲子(短歌研究7月)
ゆつくりと生きよと言ふも残りあと二分を告ぐる終末時計春日いづみ(短歌研究7月)

一首目、安倍政治の堕ちてゆくさまに暗澹としている。花びらなら情緒もあろうけれど。二首目には(「共謀罪ってなあに」講演会場駐車場)と注釈がある。「平成三十年を表現する、じぶん歌第2回」中の歌。権力の目がこのように身辺にある不気味な世になった。三首目の「終末時計」は1947年に核戦争の脅威を警告するためにアメリカの科学誌が作った「世界終末時計」で、地球滅亡の時間を午前0時として、地球最後までの時間を示す時計。針は情勢によって進んだり、戻ったりする。2018年は世界滅亡まで2分とされた。122カ国が賛成した核兵器禁止条約に全ての国が参加して、世界終末時計の存在自体を終わらせねばならないとICANのベアトリス・フィン事務局長は言っている。
「新日本歌人」七月号では「沖縄のいまを詠う」が組まれた。

大和人も外国人も島人と共に辺野古のテントに座せり 謝花秀子
今日もまたシュワブの前に座り込み誰もが憤怒を皺に刻みて 玉木寛子
戦争ゆ逃れて北部にたどり着きし母を思へり雨の日ことに 名嘉真恵美子

辺野古新基地をどうしても阻止しようという県民の意志に反して工事は強行されている。「沖縄でいま、起こっていること」と題して琉球新報政治部長の島洋子の沖縄現地レポートもあり、現状を伝えている。「沖縄にはいまだ平和憲法は適用されていません。憲法を変えるのではなくて、憲法を日本の隅々まで適用させることが先ではないでしょうか」と言う言葉が痛切であり、これは沖縄の問題というより、日本の根本的な課題であると受け止めねばならないと思う。名護市長選に見られるように権力はあらゆる手を使って、県民の意志をねじ伏せようとする。今年の秋の沖縄知事選挙でもそのことが予想される。

安室奈美恵の隣に翁長知事痩せて立てりけり「津梁」の文字を負ひ 大口玲子

病後の痩せて痛々しく見える翁長知事。「津梁」は橋渡し、手引き意味し、翁長知事の役割を思いやっている。いずれにしても命がけの闘いを沖縄は戦っている。私たちもうかうかと過ごしてはいられない。

日本の屋根と呼ばるる遠きにて「沖縄と生きる」の道はいかなる 久保田武嗣
敗れたる名護の選挙も最後に勝つまでのプロセスのひとひらぞかし 仲松庸全
「あきらめない」基地を許さぬ合言葉淡々と言うまでの長き闘い 奈良達雄
めぐり来る「屈辱の日」なればこの年も紅きを誇れ梯梧の花よ 西山桧尾

このように沖縄に寄せる歌は全国で詠い続けられるだろう。そして、普天間基地撤去、辺野古新基地建設反対の声がさらに広がることを願う。
「短歌研究」七月号の特別インタビュー「馬場あき子氏に聴く」が読み応えがあった。翻訳の現場からの問いにこたえるとして、聞き手はオーストラリア国立大学副学長のキャロル・ヘイズと「ヤママユ」の田中教子。「詩歌を声に出して読むことについて」では、万葉集の冒頭歌を読み、調べについて、また読み方について語り合っていて興味深い。戦後の歌会の様子が語られ、馬場あき子の戦争体験が具体的に語られて印象深い。韻文の翻訳の難しさや、読書と短歌について語られ、最後に現代短歌でいいものがどのぐらい愛唱されているか問いかけている。
「短歌往来」七月号の「時代の困難を歌う」で、寺尾登志子が「7年目の夏を迎えて」として東日本大震災を詠んだ歌を挙げて、震災と福島原発事故を振り返っている。そして、昨年十月に刊行された遠藤たか子の歌集『水際』の歌を紹介している。歌集の「あとがき」には「六年半も経ちますと復興のかげに押し遣られ、半ば忘れられたかのようにもみえます。が、実際にはまだまだ現在進行中です。特に放射能問題の深刻さは、いじめや差別、風評被害、人間関係の分断など思わぬ方向にまで広がっています」とある。

ひと握り砂のこるとぞ津波死は火葬後かならず肺のあたりに
原発はなぜ反対をしなかった? 被災地の「被」をけふは問はるる
放射能濃くただよへる村里をよぎる生死の水際をよぎる(『水際』より)。

「生死の水際をよぎ」っているのは困難な時代を生きている私たち自身の姿にほかならない。時代の困難を意識し、表現し続けることのみが、困難の超克に繋がる、微々たる可能性を秘めるのではないか、と寺尾はこの文章を結んでいる。
政権を維持するために嘘をつき、恥とも思わぬ人々、西日本豪雨災害の中、宴会をして「いいなあ自民党」と発信する無神経さ。住む世界が違う人たちとは思っていたが。国民の生活に直結する政治を動かし、思う通りにならないと国会の会期を延長して悪法をしゃにむに通す。今回は賭博法、過労死促進法、参議院の6議席増ときてはたまらない。この現実を前にして、作歌も安穏とはいかない時である。



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